G-75DH3GZ7WH SCARLET LOVESONG-暁の情熱 第三話 - 無料小説漫画 フルムーン

SCARLET LOVESONG-暁の情熱 第三話

SCARLET LOVESONG-暁の情熱

夕暮れの紅のビーチで、Z4をやっとの思いで見つけたハガネ。

「あれ、ハガネちゃん?」

懐かしい声が海岸に響き渡った。夕陽の浜辺をバックに一人たたずむZ4が、自身の背後に立ち尽くす彼女を見つけるのに、長い時間はかからなかった。逆光がまぶしすぎて、彼の黒いシルエットだけがハガネの瞳に浮かんだ。彼女の胸は最高潮に高鳴った。緊張のあまり、いや、本当はうれしくて仕方がなかった。とにかく体が震え、それを動かすことも、呼吸すらもままならなかった。

「君に出会うときって、この姿でよかったんだったかな?なんかデビュー以来、すごい頑張ってくれてるみたいだね。」

瞳に鋭く入ってくる斜陽の光に阻まれ、彼の姿はいぜんとしてよく見えないが、何やら変装?をしていたようだ。それを終えて彼が踵を返し、彼女に近づいてきてはじめて彼女が恋焦がれた、Z4の姿が浮かび上がってきた。

「で、暁の女神が俺に何の用?」

出会った日以来、片時も脳裏から離れず、常に瞳の中に君臨し続けた愛しい男性を前に、凄まじい興奮のため、ハガネはZ4の質問に、口を開き言葉を返すことができなかった。

「ハガネちゃん、もう遅いよ。もはや君は知る人ぞ知る有名人、スクリーンの”スーパースター”だ。暗くならないうちに、はやく帰りなさい。」

あいかわらず涼しい笑顔で、あっさりと自分を突き放す彼の言葉に、ハガネは体中に言いようのない”怒り”にも似た震えが襲ってきた。氷のような冷たい衝撃が全身を貫いたのである。確かに彼女は、一気にスターダムにのし上がった。もちろん彼女の持つ、類まれなるスター性が相乗したのは間違いないが、でもそれは全て、Z4このひとのために、この男性との唯一の”繋がり”を、彼女なりに必死につなぎとめたい一心が、そうさせたに他ならなかった。

彼のあっけない態度に対しそんな彼女は、今にも涙が溢れそうになるくらい無性に腹が立った。ここまで、全てを賭けてきたといっていいほど、中にはあまりにも意に沿わない、Z4でもない他の男性とのラブシーンでも何でも、とにかく引き受けてきた。全てはこの男性のために、それなのに、自分はこの男性にとって、こんなにも、こんなにもどうでもいい存在なのか?

怒り心頭の頂点に達した瞬間、彼女の中から理性も、恥じらいも秩序も、完全に決壊した。後で考えてみれば、どうしてあんなことができたのか?後悔?いや、それとは全く違うが、それについて考え込んでしまえば、体中が狂おしいほどに、熱くてたまらなくなる。

ハガネはZ4につめより、勢いのままに手を伸ばし、彼の唇を奪ってみせた。

その突然の衝動に、何より驚いたのは彼女自身だった。もちろんずっと夢見続けていた展開ではあるが、こんなにも早く、それもこんなにも大胆に、それをしてしまうとは…….。

「これが私が、あなたの話を引き受けて、動き続ける理由です。この気持ちは何があっても決して変わりません。どうかいつか、私のこの気持ちにこたえて、”怪人(ファントム)”とも、”ゴースト”とも言われる、あなたの本当の姿を見せてください。」

そう言い残すと彼女は、薄暮のビーチを足早に去っていった。

一方自分の予想しないことの矢継ぎ早の展開に、Z4も自分の思いつく限りに、思考を巡らせた。

(なんか俺、ハメられてんのかな?これが噂の”ハニートラップ”?彼女については声をかける以前に、ちゃんと調べたんだけど、とくに何か脅威になるような連中と、つながってる形跡はなかったはず、たとえば”虎穴に入らずんば虎子を得ず”そんなことわざがあるが、しかし俺という”虎穴”に入って一体彼女は、どんな”孤児”を得るというのだろう?)

結論から言えば、とうてい彼の理解できる回答など得られかった。でもここへきて、そう、生まれて初めて、それもかなり彼は、彼自身の”醜態”をひどく憎んだ。

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