G-75DH3GZ7WH AGE-原罪-第二十話 - 無料小説漫画 フルムーン

AGE-原罪-第二十話

AGE-原罪

シゲハルの指令を受けて、かつての彼の部下たち、バルドーのエリート戦闘機部隊、王者”帝王”のメンバーである、ヒロヨシ=ニシモト、トシオ=オオノ、トシアキ=ホンノが搭乗する最新鋭の戦闘機”サクラ”の三機が、Z2の空母に迫りくるなか、彼らを迎え撃つために、今や完全に旧式となった戦闘機、”レイ21″に搭乗し、なんとか飛行甲板を離陸した、ドゥーシェのジャンジャック=スオウ。決戦、シゲハル、”帝王”VS”ボロ船”のスオウの開幕である。相手の戦闘機より優位な高い位置、相手の背後や見えない位置にまわりこみ、攻撃をしかけて戦いを制するドッグファイト、即ち格闘戦の名手であるのがスオウである。その態勢をとらせないために、海面スレスレの位置から、より高度に上昇しようとするレイ21に対して、三人は上方から容赦なく、機銃掃射をあびせた。スオウは弾丸が降り注ぐたびに、海面から湧き上がる水柱や、三人の攻撃してくるタイミングの隙を狙って攻撃をかわしまくった。スオウの得意技の一つに、超安定飛行技術を利用した、”海面スレスレでの攻防”があげられる。海面スレスレでは、極めて安定した飛行技術をもって飛ばないと、海に落ちてしまう。その状況で、重さ数トン以上もある戦闘機を操縦するというのは、熟練パイロットたちにとっても至難の技であり、まして上方の敵からの攻撃をよけまくるなど、恐ろしいまでの離れ技である。

スオウはかつて、第一次大戦の最中、幾度もそれを利用して、敵軍の猛攻をくぐり抜けてきた。この、今となっては旧式のレイ21は、一次大戦の中盤まで、スオウの専用機でもあったのだが、他の戦闘機の追随を許さぬほど、非常に軽く設計されていて、それゆえどの機体よりも、優れた機動性と旋回能力、スピードを発揮できた。格闘戦の名手であるスオウにとって、この機体はまさに、この男のために生まれてきた戦闘機といっても、決して過言ではなかった。しかしこの機体は、あまりに軽量で軽装であるため、防御性能については極めて脆弱という、弱点をあわせ持っていた。それゆえ1、2発でも被弾すれば、すぐに炎上、燃え上がって落ちてしまうため、バルドーをはじめとする、アンタント陣営からは”フライングライター”と、揶揄されていた。だが、この機体の脆弱性のもと、スオウの操縦技術は、極限なまでに磨かれ、研ぎ澄まされていった。また、”諸刃の剣”とも言える、この機体の機動性を、いかんなく発揮させることにより、彼は大空の最強の男となったのは確かである。格闘戦はさることながら、やむを得ない事情により陥った、海面スレスレでの攻防戦においても、敵機は優位な高位置から、下方のスオウ一機に対し、複数機で機銃をぶち込みまくるが、ことごとくよけられてしまう。何が何でも撃ち落とそうと近づきすぎると、強風にあおられて、海に落ちる危険性が高まるし、スオウ一機に執着しすぎると逆に、背後を敵機に狙い撃ちされてしまう可能性も出てくる。それらの理由から、敵機はスオウ撃墜を断念、帰還していくことも多かった。

しかし今回の敵は、バルドーの至宝ともいえる、すご腕のパイロット三人、戦いは一瞬の気のゆるみなど決して許されない、食うか食われるかの、恐怖と緊迫が空間を支配する、熾烈を極めたものとなっていた。敵の猛攻凄まじい中でもレイ21は、なんとか攻撃の機会を見つけ、上方の三機の”サクラ”に反撃に出た。だが、この強者どもも、スオウの攻撃を巧みにかわし、洗練された連携プレーのもと、的確に攻撃を繰り出してくる。特にリーダー格のヒロヨシは、自分はもちろんのこと、仲間の機体の位置や状態を広範囲の中で、瞬時に的確に把握する、優れた広い視野を持っていた。彼の安全網を盾に、トシオとトシアキも、持ち前の戦闘技術をいかんなく発揮できた。最良のタイミングで、近接、そして旋回してスピードアップ、あわせて攻撃をよけながら、猛獣のごとく機銃を吹っ飛ばしてくる。この空の覇者たちは、まぎれもなくバルドーが誇り、そして世界最高峰に君臨する、すばらしいパイロットたちなのだ。因みに、彼らの性格を付け加えておくと、スオウやシゲハルにも負けず劣らずの、”命知らず野郎ども”である。

そこでスオウはブーストで(*エンジンには、長時間の安定的な運用を実現するために、ある一定以上に出力するのを抑制するため、制御装置がついている。それをパイロットが意図的に外し、通常以上のパワーを繰り出すことによって、スピードや機動性を飛躍的に上げることができる運用方法。ただし、数分以内にとどめないと、エンジン故障や、想定以上の燃料消費に憂き目を見る危険性があるため、運用には細心の注意を払わなければならない)、すばやく旋回、そのまま猛スピードで、なんとか海面スレスレの窮地から脱出し急上昇、三人の呼吸や挙動を分析しながら、機銃掃射を繰り出した。スオウのその的確な弾丸の軌道に、さすがの三人も、これまでに経験したことのないほどの、緊張感と、戦闘における難しさを痛感していた。

(これが、シゲハル隊長が”最強”と認めた男、ドゥーシェの蒼き狼……。)

しかし、それはスオウとて同様であった。このまま時間がたつほどに、この三人の駆る高性能の最新鋭機、”サクラ”に撃ち落とされる可能性が高くなる。この空戦に勝つには、彼らよりも、高く高く飛ばなければならない。だからスオウは、ただひたすら待っていたのだった、”大きな大きな風”が来ることを、そしてとうとう、その瞬間がやってきた。まわりの低気圧に促され、生み出された上昇気流である。それを掴み気流に乗って、誰よりも速く、そして誰よりも高く、一気に急上昇した。複雑な軌道を描きながら、舞い上がっていくレイ21を、もはや誰の監視網からも、捉えることができない。スオウは三人の視界から、完全に消え失せたのだった。

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