女王は、将来的にこのラーミラ王国を中立を超えて、真の平和主義国家へ移行させるため、それを阻もうとする、軍の勢力に対抗すべく、シゲハルに自分の側近になるよう懇願した。シゲハルは、もともとの搭乗機、ファイヤースピリットを失ったために女王が、輸送機と称して下賜を申し出た航空機”ありあけ”に視線を向けた。輸送機のわりには全体的に小型で、積載スペースはほとんど無く、最新鋭の高出力エンジンを搭載し、機銃、火器など兵装の充実ぶりから見て、輸送機でなくどう見たって戦闘機だ。彼は女王に向き直り、口を開いた。
「女王陛下、私は職業軍人でありますゆえ、お申し出の職務はあまりにも畑違いです。それにこの機体は、どう見ても輸送機でなく戦闘機です。平和主義国家を目指すあなたが、そのようなことをなさるのは、あまりにもふさわしくありません。」
シゲハルはなおも頑なに、女王の申し出を固辞した。しかしそれでも彼女は引き下がらない。
「あなたにお願いするにあたり、私のしているこの行為を含めて、私のすべては、間違いなくいつか、後の人間が、神が必ず裁きます。私はそれを、すべて受けるつもりです。そのうえで、私の理想、夢のために、あなたの協力が必要なのです。どうか、私に力を貸してください、シゲハル=ムラサメ!」
女王は再三にわたり、シゲハルにこの国にとどまり、自身の側近になるよう頼み込んだ。若干10歳であるのにも関わらず、一国を背負う国家君主としての壮烈な覚悟と、断固として揺るぎない強い意志を、シゲハルは見せつけられた。彼女はまさに、もとより”国家の長”となるべく、宿命づけられた星の下に生まれた、唯一無二の女王なのだ。そんな彼女に、ここまでせがまれては、もはやシゲハルに、承諾する以外の選択肢は残されていなかった。
「女王陛下、陛下とこの国のために、僭越ながらお申し出を、謹んでお受けいたします。」
ここでこの、ラーミラ王国の国家体制を、簡単に説明しておこう。行政は、レディー.ジョングラン女王を頂点としその配下に、内閣総理大臣と陸海軍が並立し、内閣総理大臣のもとに、各省庁のトップである国務大臣がおかれ、行政を担当する政府(内閣)を構成している。
国の方針、法案を制定する立法機関である議会は、上院、下院からなる二院制で、上院は、王族、貴族、地主、聖職者、女王からの推薦があった者たちから、下院は、一定額の税金を納める資本家、有力市民層から選挙で選出された者たちから、それぞれ構成される。基本的には王族、貴族ら特権階級を中心とする”王統党”と、資本家、有力市民層を中心とする”勤労党”の、二つの政党が、交互に政権を担っていく、二大政党制を採用している。
シゲハルは女王の推薦のもと、選挙なしで上院議員に籍をおき、王統党と勤労党のどちらにも属さず、中立の立場から、女王の側近として、彼女の意志を内閣に取り次ぎ、内閣の行政遂行のために、助言やサポートを行う、”内閣補佐官”として、この国の中枢を担う主要メンバーとなった。
それと同時にシゲハルは女王から、ありあけをもらい受けることとなったが、その資金の出どころは、女王のポケットマネーとなっているが、もとは国民の血税であるから、なんとか生活困窮者、社会的弱者の救済法案を、一つ成立させた。これがシゲハルの、初めての議員立法となった。こうしてシゲハル、女王の平和路線と、それに対抗する陸海軍勢力の、熾烈な政権抗争の火蓋は切って落とされた。そのあたりは、おいおい展開していくが、次回から、シゲハル奇襲後の、本篇に話を戻すことにする。