ザザーン、ザザーン
どこまでも果てしない暗闇に包まれた暗い海の向こうをぼんやり見つめ、まるで魂が抜け落ちたようにヒスイは呆然と立ち尽くしていた。闇の中に一筋の光をたたえる夜空の月の下、ヒスイは妹のことを考えていた。
心から力の限りに抱きしめて決して放したくない反面、自分の汚れた手から一刻も早く突き放したくなるような、恐ろしいまでに相反する自分の心がその矛盾に引き裂かれそうになるのを、決して許さないようにヒエンは自分を求めてくる。
いつものように汚れた任務からくたくたになって帰り、死んだようにベッドの中眠りに落ちた自分の隣に、目を覚ますと彼女がいて、その澄んだ美しい瞳が真っ直ぐに射止められている事に気が付き、狂おしいほどに胸を高鳴らせた自分に恐怖した。
幸か不幸か何かした覚えもされた覚えもないが、それほどまでに自分を翻弄しつくす妹を、忘れうる手段など到底持ち合わせない。愛するほどに絶望し手に入らず届かないほどに渇望する、そんな苦しみに永遠に苛まれるなら、いっそ灼熱の火矢が自分を穿ち永遠に眠らせてほしい、もう二度と愛するヒエンを見られないように………..。
「お兄ちゃん!!」
屋敷のほうからヒエンが、息を切らし血相を変えて駆けつけてきた。
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