ヒエンが心からヒスイを求め愛するそんな思いとは裏腹に、自身の手を血で汚すほどにどんなにヒエンが彼を強く抱きしめても、固くこわばった彼の手はますます天使のような妹の瞳を遠ざけていった。以前のようにその手で妹を強く抱きしめることもなくなった。
どんなに近くに愛する兄がいても、どんどん自分から遠く離れていくほどに…….ヒエンのヒスイを抱きしめたい気持ちも、引き寄せたい気持ちも日増しに強くなっていった。
離れている時間が多いほどに、ヒエンの彼を抱きしめる回数も頻繁になっていった。小さな白く細い指を兄の大きな手に絡めて、兄妹ではなくまるで男女の関係のように、時には自身の唇をヒスイのそれに近づけて、瞳を閉じて彼のそれを奪おうとした。
だがそれは、ヒスイの見えない力で寸前のところで止められる。ここ最近ヒエンは何度となく、それを止められたか分からない。それでももちろん、彼女の兄を愛する気持ちは少しも変わることはないわけだけれど…….。
いつかヒスイが、自分を妹ではなくその自分に向けられる優しい眼差しが…….自分を一人の女性として見てくれる瞬間を、ヒエンは心から待ちわびていた。
ヒスイの手が血に染まるなら自分もその罰を、罪を背負う。そうしてたとえ、どんなに二人堕天の道を歩むとも奈落の底に堕ちようとも、ヒエンの果てなき夢は決して光を失わない。
ヒスイが出かけているあいだ静かな海の波の音を聞きながら、死神と他愛ない話をして過ごすのが、ヒエンの日課になっていた。
「ヒエン様、ハイン様がお呼びです。」
海辺の白浜に、ティスコンチ家の執事がやってきて彼女を迎えにきた。
(……….それじゃあ死神さん、また。)
ヒエンは死神と別れ、ハインの屋敷へ戻っていった。
兄への思いに恋焦がれる彼女を思うと死神は、やむを得なかったとはいえ自分の定めた運命の輪の中で生きるこの双子を、複雑な思いで見ていた。
「これからだよヒエン…….君たち双子を、本当に悲しい運命が襲いかかってくるのは………。」
そうつぶやくと死神は、一人また、黒い霧の中に消えていった。
DESTINY or FATE-運命の輪-第一話↓↓↓