「お兄ちゃん!!」
あらん限りの力を振り絞り、ヒエンは全力疾走でヒスイのもとに飛び込んできた。
「お兄ちゃんお願い!!今すぐ私と一緒に、ここから逃げましょう!!」
(…………..。)
たとえ自分の意志に完全に相反するとしても、また途方もないさすらいの旅に身を投じるよりも、ヒエンの安泰を考えれば、ここから彼女を連れて逃げるなど到底できなかった。
「お願いお兄ちゃん、私はたとえ誰に憎まれて命を狙われようと、危険な旅路であったとしても、私はお兄ちゃんが大好きなの!お兄ちゃんとしてでなく一人の男性として……..。だからお願い、私から逃げないで、私とずっと一緒にいて………,、私を妹としてじゃなく一人の女として私を見て!!」
その瞳に涙をいっぱいに溜めて、張り裂けんばかりのヒエンの叫び。それでもヒスイはこの妹の願いを聞き入れてやることはできなかった。この喉を引き裂いて、理性も倫理も全てを破壊しつくして、心のままに受け止めて、彼女を壊れるほどに強く抱きしめてあげたかったのに………….。
悲しげに自分から瞳をそらし、呆然自失の直立のまま決して動かぬ兄を置いて、ヒエンは失意のうちに去っていった。心の傷からあふれ出し、限界など知らぬままにとめどなく流れ落ちる血の涙とともに。ただ静かに打ち寄せるさざ波の音と、清涼な海風だけが絶望の暗い闇夜に一人立ち尽くす、ヒスイの心を包み東の空は白く明けていった。
ヒスイは心の中に、夜明けの光など終ぞ見出せぬ現実とは裏腹に…………..。
DESTINY or FATE-運命の輪-第一話↓↓