世界が二つの陣営に分かれ、各国が戦火を交える世界大戦の時代、大空を駆け巡る”蒼き狼”と恐れられた一人の戦闘機パイロットがいた。その名はジャンジャック・スオウ。地獄の業火に焼き尽くされた極限の戦場の中で、生きる意味と希望を探し求め、それなのに大衆に憎まれ大切なものを次々に失い、絶望に苛まれながらも、それでもこの戦争の時代を生きて生きて生き抜いた、スオウとそのライバル達の栄光と落日、命の煌めきと死闘の物語。
時は世界大戦の時代、各国は二つの陣営に分かれ戦火を交えていた。主に軍事同盟によって結ばれた、諸国家によるアライアンス(同盟)陣営と、協調、友好関係によって結ばれた、諸国家によるアンタント(協商)陣営に分かれ、各国はおのおのの利権と覇権をめぐり争っていた。アンタント側の中心国である、島国バルドーの南東の海域に、小型の空母が停泊していた。そのオーナーの名は、ジークリード2nd(以下Z2と表記)。世界各国の政治、軍事、経済すべての情報を、統括し牛耳る、”この世の支配者”とも、フィクサーとも目される、謎のベールに包まれた男である。
ある夜彼のもとに、一人の元将校、戦闘機パイロットが訪れた。その名はシゲハル=ムラサメ。もともとはアンタント陣営の中心国、バルドーの海軍航空隊、戦闘機エースパイロットであり、スラリとして均整の取れた顔立ちの年齢32、3の男である。
「よく来てくれたね、シゲハル君。実は君に頼みがあってね、なにそんな、悪い話ではないよ。」
現在勃発している世界大戦は、いわゆる二回目の戦争(第二次世界大戦)。第二次大戦と同じ、二つの陣営の対立により巻き起こった、19年にも及んだ先の戦争、第一次大戦が終息した、3年後の世界である。シゲハルは第一次大戦時、大空の戦場を駆け抜け、燦然と輝く戦果をあげ、アンタント陣営勝利に、大いに貢献したのだが、わけあって今から1年前、すなわち第二次大戦がはじまったのと同時に、バルドーから出奔したいわゆる”脱走兵”である(これらについては後に詳述することにする)。そんな彼をZ2は用事を押し付けるため、自分専用のこのプライベート空母に呼び寄せたのだった。
「シゲハル君への頼みというのはね、第一次大戦から現在に至って、君の出身国バルドーが与(くみ)するアンタント陣営の対立国、すなわちアライアンス陣営の盟主国、ドゥーシェのエースパイロット、ジャンジャック=スウについてのこと。」
Z2の言葉、すなわち当時のシゲハルにとっての敵国、ドゥーシェの戦闘機パイロット、ジャンジャック=スオウの名を聞き、彼の目の色は変わった。第一次大戦中、バルドーのエースパイロットとして、敵なしの彼だったが、敵国エースパイロットのスオウは、そんな彼が唯一、自分以上の最高のパイロットと認めた人物であり、その戦闘機の名に因み、”蒼き狼”と呼ばれ、恐れられた空の覇者である。
今回の第二次大戦においても、この”蒼き狼”ことジャンジャック=スオウは、アライアンス陣営盟主国ドゥーシェの、戦闘機パイロットとして参戦していた。
「現在スオウ君は、ドゥーシェ北東の海域を航行する、小型戦艦の護衛のため、戦闘機”蒼き狼”で飛行中。実はある奴らから依頼されてね、シゲハル君にはその、小型戦艦を沈めてほしいんだよ。もちろん君の執着するスオウ君と、おおいに戦ってくれちゃって構わない、さあ、どうする?」
Z2の言葉に、シゲハルは心の内で、湧き上がる興奮を抑えることができなかった。第一次大戦では叶わなかった、スオウと直接対決の、最大のチャンスが与えられたからだ。夢にまでみた相手への、挑戦権を獲得したわけであるから、彼が心躍らせたのも当然のことである。そんな彼に、Z2はさらに問いただした。
「シゲハル君、バルドー出奔後の今では、アライアンス、アンタントどちらの陣営にも属さない中立国、ラーミラ王国の国家君首に拾われて、そこで政治家させられてるようだね。そんな君にはもう、戦闘機パイロットは昔の話かね?俺の頼み、引き受けてくれるかな?」
「……僕は一日たりとも戦闘機パイロットとしての誇りを忘れたことはりません。そう、諦めなかった、何があっても、生きることも、この道を貫き通すことも。もちろん、受けて立ちますよ!」
そんなシゲハルの覚悟に、Z2は上機嫌。
「気に入った、そんなシゲハル君にふさわしい機体を用意したよ。そうそう、君は戦闘機パイロットとしてだけでなく、戦艦への有効なダメージを与える魚雷、上空から急降下して、戦艦に爆弾を投下する、急降下爆撃の名手でもあったね。そんな君の”三刀流”を実現する、まさに世界で唯一無二の航空機だ。すなわち、機体胴体内の爆弾倉から爆弾を投下する、急降下爆撃の後、そのまま戦艦に魚雷までぶち込み、急降下爆撃と魚雷投下後に身軽になったら、そのまま戦闘機としての役割を果たせる、ハイパー優れもの、その名も”シューティングスター”。」
シゲハルは機体にすぐさま乗り込み、イグニッション、スターターを素早く完了。煌々と光る月明りを頼りに、シューティングスターはZ2のプライベート空母を飛び立っていった。
ちなみにこのシゲハルは、普通のパイロットが着るようなパイロットスーツは着ない。ウエットスーツを着用しその上には、機銃をぶちかまされて、飛行機の部品および、ガラスが粉砕したときに、その身を守るために、白いマントを着用して、戦闘時のコックピットに臨んだ。おまけに脱出用のパラシュートもつけるのを嫌っているという、一風変わったところがあった(撃ち落とされたら100パーセント死ぬじゃねえか!)。
さらに目的は、スオウの護衛する、小型戦艦を沈めることであるが、シゲハルはそれをする気はさらさら無かった。この男は、いわゆる”世界の支配者”として、自分の意のままに全てを動かし、さらには、以前の彼との個人的な”因縁”により、Z2がどうしても気にくわないのだ。
「戦艦を沈めるなど、無駄な殺生など必要はない、目標はただ一つ、”蒼き狼”!」
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