突如発生した大きな上昇気流に乗って、レイ21は誰よりも速く、そして誰よりも高く高く、舞い上がって急上昇した。もはやその動きを、誰も捉えることができず、三人は完全にスオウを見失った。
(どこだ!?蒼き狼!!)
敵を見失うことは、戦闘機パイロットたちにとって、すこぶる恐怖以外なにものでもない。敵はどこに隠れ、また、どこから襲い掛かってくるのか皆目見当がつかない。先刻のことであるがシゲハルは、指令と同時に、三人にある忠告もしていた。
「上昇するレイを追ってはならない!!」
機体が軽いレイ21は、風を掴むと、他のどの戦闘機よりも、上昇能力を惜しみなく発揮する。それによって、戦闘において、敵に対して優位となる、高位置をとることができるのだ。今や完全に、戦況は一気に、スオウにとって有利に傾いた。だが、バルドーの最新鋭機の、サクラに搭乗する三人には、そんな状況下にあっても、レイ21に対抗し得る、有効な手段がまだ残されていた。レイ21は機動性に長け、スピードも出るが、”急降下”が苦手という弱点があった。その上ただでさえ、旧式であるレイ21に比べ、最新鋭機サクラは、急降下能力に長け、スピードもレイ21と互角、条件によっては、それを凌ぐほどの速さを誇るまでに進化していた。即ち見えずとも、急いでその場所から急降下で逃げれば、それが苦手なレイ21の攻撃や追撃を、回避できる可能性は十分にあった。
「ただちに急降下せよ!!」
ヒロヨシがトシオとトシアキに、バンクで指令を出し、急降下で避退を試みた。しかしわずかに遅かった。断っておくが、決して彼らの判断が遅すぎたということは無い。だが空戦は、コンマ数秒、1秒の判断の遅れが、取り返しのつかないほどの、致命傷となることがある。敵はすでに、三人をその射程に捉えていた。太陽を背にして、三人の視覚を完全に奪い、レイ21は三人が見えない場所、即ち三機それぞれの上後方、真後ろ、下方胴体部に、瞬時にまわりこみ、数発の的確な機銃掃射のもと、一気に勝敗を決した。
空戦を制し、Z2の空母に定点着陸を果たしたスオウは、たった今死闘を繰り広げた、空を一瞥すると、そのまま静かに、艦橋の司令官室に戻っていった。
ヒロヨシ、トシオ、トシアキが散った。その悲報はすぐに、外遊中のシゲハルに伝わることとなった。
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