帝王のメンバー三人の死の一報に、シゲハルは言葉を失った。だが、悲しんでいる暇はない。このままでは、ラーミラ王国国家君主、レディー.ジョングラン女王の暗殺が決行されてしまう。急ぎ、ラーミラ王国首相に連絡をとった。
「首相、イオリ=ミハイル(シゲハルの政治家としての名前)です、申し訳ありません。女王暗殺計画を、私の采配で阻止することは叶いませんでした。かくなるうえは、近日中に議会で可決、施行予定の、軍備に対する予算削減法案、即ち”軍縮法案”の撤回しか、もはや女王陛下の暗殺を、止める手だてはありません、どうか、ご決断を。」
ラーミラ王国の軍部が、国家君主のレディー.ジョングラン女王の暗殺を、Z2に依頼した経緯について詳述する。軍部は勢力拡大、あわせて第二次大戦への参戦のため、それに真っ向から反対の立場をとる、女王、政権(内閣)の平和主義路線の、排除を目論んでいる。女王の強い意向をうけ、内閣は、近日中に議会において、軍縮法案を可決、施行予定であった。その軍部への圧力に対する、痛烈な報復が、女王暗殺計画の画策へとつながったのであった。帝王の三人が散った今、彼女の暗殺を確実に止める方法はただ一つ、軍部への迎合、即ち軍縮法案撤回しかないのである。
女王の強い希望で、その法案の可決、施行を第一目標とし、首相が、女王の組閣命令のもとに、内閣を成立させたため、必然的に内閣は、女王に対して責任を負っている。したがって、軍縮法案が不履行となると、内閣は、その法案を成立できなかった責任をとって、総辞職に追い込まれる、まさにその運命が決定した瞬間であった。この局面にあって、かろうじて何とか、女王の暗殺は回避されることとなった。しかし、軍部の勢力は、日増しにコントロールが、とうてい不可能なほどに強くなっているのが、手に取るように明らかとなったのである。
もっとも真実を言えば、暗殺計画は、平和路線をとる女王、現政権である内閣牽制のための”脅し”にすぎなかった。軍部も、世界的宗教の最高権威をも兼ねる、唯一無二の正当なる国家君主、レディー.ジョングラン女王を、本気で暗殺する気はなかった。しかしながら、軍縮法案撤回のために、Z2を巻き込み、一芝居打つことにより、それが功を奏し、今回は軍部の完全勝利となったのである。
一連の騒動の終結後、イオリ=ミハイルは、戦闘機パイロット、シゲハル=ムラサメとして、先の空戦と、命を散らせたヒロヨシ、トシオ、トシアキのことに思いを巡らせた。彼らを死なせてしまった、司令官としての自分の非力さを、この上なく呪い、そして改めて、”蒼き狼”ジャンジャック=スオウという男の、恐ろしさを思い知ることとなった。この男は、尋常では考えられないほどの、戦いを制する、恐ろしいまでの的確な視野を持っている。空戦において、一人の人間の目で見える、通常の視野では、あまりにも広すぎる大空の空間の中で、彼にははたして、心眼および神眼でもついているのか、敵の位置や動きを、信じられないほど正確に捉える能力があった。これは、シゲハルにも、とうていできない芸当であるのだが、スオウは時に、目で直接見ずとも、敵の行動を、的確に把握することができた。
話を、シゲハルの奇襲作戦時に戻すとしよう。シゲハルは急降下爆撃で、”蒼き狼”を仕留め損ねた後、強烈な速さで、それを追撃することになったのだが、その最中に、スオウと並走していた小型戦艦の、猛烈な高射砲を受けることとなった。その噴煙で、シゲハルは視界を、完全に封じられたのであるが、それはスオウも同様であった。しかしスオウは、その状況下の中にあっても、シゲハルの位置を正確に把握し、彼に向けて、数発の機銃をぶち込んでいた。しかしシゲハルは、小型戦艦に魚雷を発射するため、戦艦の右舷に大きく回り込んだ。その移動が、あと、コンマ数秒でも遅ければ、スオウが放った数発の機銃で、彼は撃ち落とされていたのである。今回もスオウの、戦闘機パイロットとしての神業で、愛する部下三人を、失うことになってしまった。
(ジャンジャック=スオウ、何が何でもこの男に勝ちたい、俺のこの、人生全てを賭けて!!)
歯を食いしばり、食いちぎらんばかりの悔しさに、シゲハルはいつまでも、震えていた。
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