現在ドゥーシェより海を隔てて、東方へ数千キロ離れたアライアンス(同盟)陣営の国ヤダンと、アンタント(協商)陣営の国々の連合軍が、ヤダン本土より数百キロ南に位置する離島サロームにおいて、血みどろの地上戦が繰り広げられている。
サロームはヤダン本国への直接攻撃、侵攻をくいとめる最後の防波堤であるため、アライアンス、アンタント両陣営双方の、熾烈を極めた激しい攻防が繰り広げられ、民間人含めて、数えきれないほど多くの命が奪われている、まさに地獄の戦場と化していた。そこに送り込まれてしまった少年兵、カズキ=キサラギの救出と、島国の想像を絶する”計り知れないほどの悲劇”を終わらせるため、スオウは一縷の望みをかけて、この世界の支配者と目されるZ2に、停戦の実現を願い出るため、彼のプライベート空母にやってきていた。その願いを受けて、Z2はしばらく一計を案じた。
「ちょっと待ってて。」
そうスオウに言い残して、Z2は部屋から出ていった。そうしてしばらくの時間がたった後、彼は再び部屋に戻ってきた。
「ついてきなよスオウ君。」
Z2の指示のもと、スオウは彼とともに空母の艦橋から外へ、飛行甲板、滑走路へと出ていった。そしてその目に飛び込んできたのは、かつて第一次大戦の時スオウも搭乗していた機体、即ち現在の搭乗機”蒼き狼”以前の搭乗機、”レイ21″であった。今となっては完全に旧式となった戦闘機である。
「おやおや、早いね、もう早速やってきたよ。」
Z2のその言葉に、スオウは東方の空を見上げた。すると激しい轟音とともに、三機の戦闘機がここへ向かってくるのが見える。
「君のお願い、聞いてあげてもいいよ、ただし条件がある。この”レイ21″に乗って、あの三機を撃墜できたら叶えてあげてもいいよ。あの三機の搭乗員はいずれも、バルドーが誇るエース級のパイロットたちだけどね、さあ、どうするスオウ君。」
スオウは向かってくる戦闘機三機をもう一度見上げた。それはバルドーの最新鋭機”サクラ”であり、最新式の高出力エンジンを搭載している。この排出量の高さから鑑みるに、旧式の”レイ21″より、間違いなくはるかに高く飛べる。機動性はなかなか優秀、そのうえ防御性能に優れたこの三機を撃ち落とすには、肉薄してかなりの至近距離から、機銃をくらわし確実に仕留めなければ、スオウにまず勝ち目はない。
(Z2、こいつ俺に死ねといってるのかよ……。)
それでもスオウに後戻りは許されない。急いでレイ21のコックピットに乗り込み、スターター、イグニッションを完了させ、滑走を試みた。敵は高高度から、すぐそこまで来ているのに、Z2のプライベート空母の飛行甲板(滑走路)では、レイ21を離陸させるだけの十分な滑走距離が無い。もちろんこれも、Z2の嫌がらせの想定の範囲内である。そこからしてマジでむかつく!それでもスオウは何とか滑空、離陸させることに成功し、迫りくる三機”サクラ”への迎撃態勢をとった。
「俺と駆け引きしたいだって!?だったらせめて、これくらいのことは超えてから来いよな、スオウ君。それにしても、あの”ボロ船”で、どうやって勝てるかな?うーん、あら、気圧がめちゃくちゃ下がった、このあたり一帯、このあと大嵐が来るかも。」
Z2が見守るなか、スオウとバルドーが誇る、三機の強者どもとの空戦が始まった。