
シゲハルの奇襲を受けて、スオウとカズキは何とか、ドゥーシェ本国の飛行場へ帰還したが、その後スオウは、小型戦艦を沈められた責任をとり、二階級降格を言い渡された。しかしその処罰は、スオウにとっては決して、悪い決定ではなかった。偉くなればなるほど、現場に出る機会は確実に減っていく。現場主義のこの男には、降格は吉報であった。そもそも主席参謀への昇格人事は、彼にとって意味不明のもの以外何物でもなかった。
(なんで飛行訓練生出身のパイロットである俺が、作戦立案、および実行を全面的に支える参謀に?)
それについては、海軍首脳の思惑が大いに働いた結果であった。スオウは第一次大戦から、空の戦いで大きな戦果を挙げている、歴戦のパイロットである上に、今までに海軍という巨大組織に、際立って反抗姿勢を見せることなく、黙々と忠実に任務をこなしてきた。そんな彼を昇格のうえ御前会議に出席させ、海軍首脳の提案する肝いりの作戦遂行に同調、予算をとろうと画策したのだが、その作戦は、現実を度外視した、あまりにも無謀極まりない大作戦であった。
(こいつら、現場の人間をことごとく殺す気かよ!?)
スオウは基本的に何もしゃべらない男であるが、その腹の中は、悪口雑言で充満している。そのうえで、作戦に反対したのであるが、海軍首脳陣からしたら、賛同を期待したのにもかかわらず、まさかの肩すかしをくらった形となってしまった。そんな彼への海軍首脳からの手痛い復讐が、先の奇襲作戦であり、その結果を受けて彼が、まさにちょうど司令官室で、降格人事を言い渡されている時のことであった。ある一人の女性が、息をきらして司令官室に入り込んできた。
「将軍閣下!!お願いでございます、どうか、どうかカズキ君を、あんな無謀な死の戦場から、お戻しくださいませ!!」

彼女の名は、エヴァンヒューズ=クララ、飛行場の食堂で働く職員である。彼女は結婚後、すぐに第二次大戦が始まり、ここで働いていたのだが、戦争捕虜として連れてこられ、奇襲作戦の時、スオウとチームを組まされた、哀れな少年兵カズキ=キサラギと、短い時間ながら交流し、友情をはぐくんでいた。ところがスオウと同じく、小型戦艦を沈められた罰として嫌がらせで、現在泥沼の地上戦を繰り広げている、ドゥーシェより東方に数千キロ離れた同盟国、”ヤダン”へ送り込まれてしまったのだった。この少年の数奇な運命は、本当にとどまることを知らない。そんな状況にいても立ってもいられず、無茶なことと知りながら、クララは司令官に直談判に来たのだった。案の定彼女はすぐに、司令官室から連れ出されてしまった。しばらく経って、スオウは食堂を覗いてみた。
「どうして、どうして、あんな優しい子が、生きて帰れない、恐ろしい戦場に送り込まれなければならないの?本当に、戦争なんか大嫌いよ!!」
厨房の片隅で、クララは泣いていた。そんな彼女に、スオウは幼い頃、事情により生き別れ、それから生涯会えなくなってしまった実母の面影を見た。別れの朝冷たい雨の中で、いつまでもいつまでも泣いていた、母の姿そのものだったのである。
そんな昔を思い出したスオウが向かったのは、Z2のプライベート空母である。
「あれ、スオウ君久しぶり(生きてたのはもちろん知ってるけど)、なんか用?」
第一次、第二次大戦を通して、お互い旧知であるZ2に、スオウは一か八か申し入れに来た。
「現在、アライアンス陣営に与し、わが国ドゥーシェの同盟国であるヤダンが、アンタント陣営と血みどろの地上戦を繰り広げている。どうかZ2、あなたの絶大な立場をもって、かたくなに徹底抗戦を貫徹しようとしている両陣営に働きかけて、停戦を実現させてほしい。」
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