今日も海は太陽の光を受けながら、静かな波音を立てていた。いつもと変わらず、ヒエンは死神とヒスイが帰ってくるまで、砂浜の上で話し込んでいた。だが今日のヒエンはなんだかご機嫌ななめ。
「……別にのぞくつもりはないんだけどさ、なんか最近ますますやることが大胆になってない?」
死神はふくれっ面のヒエンに問いかけた。
「私ね、ハイン様がとても苦手なの。でも仕方ないよね、お兄ちゃんのために私にできることは何でもやろうって決めたんだけど……あの人のそばにいると、一刻も早く離れてお兄ちゃんに会いたくなる。だけど最近、お兄ちゃんと一緒にいられる時間がほとんどなくて…….。」
彼女のヒスイを恋求める気持ちはとどまることを知らない。昨夜ヒスイが夜遅く帰ってきて部屋で寝静まった後、彼女はヒスイのベッドの中にもぐりこんだ。会えない時間が多すぎて、せめて目を覚ました時に、自分の姿をその瞳で見つけてほしかった。ヒエンが求めることはたった一つ、普通の愛し合う男女のように見つめあって、抱き合いキスして、そんなシーンを求めずにはいられなかった。
(お願い……..私をちゃんと、妹とかじゃなく女性として愛して…….。)
ところが目を覚ましたヒスイは………..、ヒエンがベッドにいることに気づくと尋常でないほどに動揺し、そんな中おまけにハインまでが彼の部屋をちょうど訪ねてきたため、この状況をハインに知られないように切り抜けるのに必死なのと極度の混乱とで、ヒエンの求めに応じる余裕もなく彼女も無残にも自分の部屋に返されてしまった。
期待していたことは全くおこらず、そのため彼女の機嫌はすこぶる悪かった。
「ねえ死神さん、どうしたらお兄ちゃんも私のことを、女として愛してくれるのかしら。たとえばもし、天国に二人でいけたなら…..、それが許されるようになるかしら。誰も手の届かない、二人だけの楽園で……..。」
「……….。」
美しい庭園をまばゆい木漏れ日を受けて優しくそよそよと流れる小川、その流れに身をゆだね周囲の事情など気にも留めず、愛し合うつがいの水鳥のように、ただ心のままに兄を愛することができればヒエンにとってはそれだけでよかった。
彼女のまばゆいばかりの果てなき夢と天使のような美しさ。それが光り輝くほどに相反して、ヒスイの心の闇はますます濃くなってゆくのだった。
DESTINY or FATE-運命の輪-第一話↓↓