双子の兄妹に幾月かの歳月が流れたが、それらは近年稀にみる穏やかな日々だった。ある日を境に、ヒエンは確かに変わってしまった。しかし幸いなことに、彼女はヒスイのことは本当によく分かってくれた。彼女の意識にはもう、愛するものや幸福の世界しかのぼってこない。今までの悲しみが多い人生とうってかわって、これらの日々が彼女にとって一番満たされていた。それは本当に幸福そのものだった。
それはヒスイにとっても同様だった。このまま愛する女性を愛し抱きしめて、この楽園のような時間で永遠に暮らしていけるのならどんなに幸せなことか。
たとえ君が以前の君と違っていても、それでもいい、それでもいいから、そばにいてほしい……..。
人は存外最初から心は決まっているし、本当の願いも望みも実はちゃんとわかっている。だがそれなのに、なぜだか人は悩み苦しみ、どんどん心にない方向へ行ってしまったり遠回りをする。本当はヒスイももちろん、大切なヒエンのそばで、誰よりも近くで生きて彼女を愛したいのに………。
隠れ家の洞窟で、静かに眠りについた彼女の髪にそっとキスをして、その夜もヒスイは一人偵察に出た。
幸せに胸をおどらせる日々をおくる彼だったが、それが災いし、人並はずれた彼の反射力を弱めたのか? その日の夜更け過ぎ、偵察真っ只中の彼の腹部を、彼に向って放たれた一本の矢が一瞬のうちに貫いた。傷口から鮮血がとめどなくほとばしり、その場で勢いよく崩れ落ちてしまった。
「ハイン様、とうとうやりました!!」
目にも止まらぬ速さの矢を解き放ち、勢いよく飛ぶ鳥を落とすがごとく、ヒスイを撃ち落としたのは、まぎれもなくハインの刺客、その中にはハインの姿もあり、多勢に無勢で瀕死のヒスイを取り囲んだ。