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「お兄ちゃん私ね、ハイン様の屋敷にいた時よりもすっと、今や昔のほうがずっと幸せだわ。」
逃亡生活が再び始まると、ヒエンは日増しに笑顔が増えていった。以前よりヒスイのそばにいられる時間が増えたことが何よりうれしかったのだ。彼女にとって、愛する兄のそばにずっといられるならば、さすらいの人生など何の問題もなかった。
ただその一方でヒスイは、彼女の行く末を思えば自分の命を引き換えにしてでも、ハインに妹を引きわたしたほうがいいのではないかと、久々に訪れた二人だけの平穏な日々の中で絶えず葛藤していた。
彼の妹に向ける穏やかな笑顔の裏で、兄が凄まじいまでの苦悩に苛まれていることを、ヒエンはよく分かっていた。その悲しみに満ちた憂いの瞳を自分だけのものにしたくて、彼女は目を閉じてヒスイにキスをしようとする。それは相変わらず、彼の見えない力で止められるけど…………。
愛するほどに兄は自分を拒み、求めるほどに遠くなっていく。だけどヒスイの苦しみが増し、自分から離れていくほどに、ヒエンはありったけの笑顔を彼に向けた。
本当は彼女だってどうにもならない現実に、心の底から泣き叫びたくなることだって山のようにあった。でもその悲しみを背負い、それでもめいっぱいの、ありったけの笑顔でいる、その笑顔でヒスイに接するそのことだけが、彼とともに生きること、愛し続けることができる唯一の希望であると信じていたから。
いつか、互いの願いへたどり着くその日まで………………..。