G-75DH3GZ7WH SCARLETLOVESONG-暁の情熱 第十三話 - 無料小説漫画 フルムーン

SCARLETLOVESONG-暁の情熱 第十三話

SCARLET LOVESONG-暁の情熱

「ナターシャ!」

全速力でタラップを駆け下りてきたスカーレットは、のどが張り裂けるほどに叫んだ。

「ナターシャ、僕は、僕は全て捨てる!!夢なんてどうでもいい、やっと分かったんだ、僕にとって何よりも大切なものが、僕は、僕は、何より君と一緒に生きていきたいんだ!!そのためなら、僕は何だって捨ててやる、頼むナターシャ、答えてくれ!!」

出発の間際に、やっと自分の本心が分かったスカーレット。そして彼女を演じているハガネの心も、いや、それはとっくに決まっていた。スカーレットと同様、ハガネも同じだった。Z4、この男性のためなら、この男性と生きていけるなら、自分の全てを捨てられる。一方、ヒミカ=プライズ演じるナターシャは、スカーレットの本音を聞くことができて、この上なく嬉しくて、涙が溢れてきた。このまま両手を伸ばして、スカーレットを抱きしめて、自分のもとから放さないでおけば、きっと彼女は自分をおいて、羽ばたいていくことはないだろう。ずっと彼女を自分のそばにおいておきたかったし、そばにいてほしかった。そうすればずっとそばで、彼女の瞳も笑顔も見られるはずだった。それでもナターシャは自分を押し殺して、ただ涙を流して微笑むにとどまった。なぜならそれこそが、スカーレットにとって最良の道であり、ナターシャが彼女に傾けられる、最大限の愛情だったからである。

「ありがとう、スカーレット。私もあなたのことが、本当に大好きで、心から大切に思っているわ。でもねスカーレット、私はちゃんと分かってるの、あなたにとって夢を追いかけることがどんなに重要なことか。だって夢に向かってひたむきに生きるあなたは、まぶしくて見えないほどに輝いてた。そんなあなたが、私は何より大好きよ。だから自分の夢を諦めたりなんかしてはいけないわ。」

ナターシャはスカーレットを優しくなだめた。それでもスカーレットは引き下がらない。

「でも、僕にとって一番大事なのは君なんだ、君と一緒に生きていくことなんだ。その気持ちはずっと変わらない、お願いだナターシャ、僕を君のそばにおいてくれ!ずっとぼくのそばにいてくれよ!!」

ずっと自分の心の中に押し込めていた本心を、その告白を他人にゆだねるのはずるい。だから最後の最後のチャンスとばかりにスカーレットは、あらん限りの力を込めて、ナターシャにその思いをぶつけた。それでもナターシャは、スカーレットの手をとって、優しく言い聞かせた。

「たとえ私たちどんなに遠くに離れていても、それでもスカーレット、あなたが大好きな気持ちは、決して変わらないのよ。だってあなただってそうでしょう?どんなに離れ離れになっても、私たちの心は一つだわ。いつも心からあなたを応援してる。だからどこまでも羽ばたいて、スカーレット、あなた自身の思いのままに!」

ナターシャに背中を押され、スカーレットは船に戻っていった。そしてほどなく船は、都市へ向かって出港した。大切な人との悲しい別れを選び、涙で目が腫れて、いったい自分がどこへむかっているのか、明日をも見えないスカーレットの旅路が始まった、ただ一筋の希望と、優しき友の思いだけを胸に。不安で今にも胸が張り裂けそうになる、それでも、ただ目の前の風に吹かれ、一握りだけの勇気を振り絞り、明日へ向かって懸命に生きていく。そう、それこそが、スカーレットの真の美しさだ。

映画「スカーレットラブソング」は、公開から大盛況を迎え、数々の賞を授与され、ハガネとヒミカの代表作となった。

私も、何があっても、このスカーレットのように生きよう、そして強くなる、Z4、あの男性のために。

映画の撮影を終えて、ハガネは心のうちにそっと、そんな決意を刻んだ。

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