G-75DH3GZ7WH SCARLETLOVESONG-暁の情熱 第十八話 - 無料小説漫画 フルムーン

SCARLETLOVESONG-暁の情熱 第十八話

SCARLET LOVESONG-暁の情熱

ハガネは次の舞台の役作りのために、数多くの資料を真剣に読み込んでいた。その舞台で演じるのは、”天草四郎時貞”。その昔、神への信仰の自由が許されず、ひどい弾圧と迫害を受け、苦しみ悲しむ人々を救うため歴史の表舞台に登場した、神とも目される、美しき17歳の少年である。圧政に苦しめられ続けてきた人々は、やがて時の政権に対し、反乱を起こすことになる。四郎はそんな人々を救うため、自ら進んで、反乱軍の総大将となり、そして儚い命を散らせることになる少年である。この少年の底知れない深い優しさと、そして悲しみに、ハガネは心から彼に魅了された。

(私はZ4、あの男性を手に入れることしか考えていないのに、どうしてこんなにも、自分のことばかりでなく、苦しむ人々のため、他者のため危険や命を顧みず、尽くすことができるのかしら?)

彼女には、どうしても拭い去ることができない自分自身の、利己的な醜い心を持っていることに、押しつぶされそうなほど、強い罪悪感を持っていた。本当はもっと、周りの人々、他者の幸せのために、優しくなりたいと思っているのに。そう願う彼女にとって、この少年は、光り輝くほどに、目もくらむような、眩しい存在に見えていた。だからこそ、彼を演じることに、燃え盛るほどの執念を燃やしていた。そしてもう一つ理由があった。ハガネは忙しい時間の合間に、片っ端から新聞を読むことを習慣にしていた。誰もが読み飛ばしてしまいそうな、短い記事も含めて隅から隅まで。そうすると、いくつか、気になる記事を見つけることができる。この世界の遠いところ、でもそこには間違いなく、悲しい紛争が起こっていて、もはや国際的な政治機構が、戦乱に巻き込まれた人々の救済や停戦、争いの解決について、完全に匙を投げてしまっている地域において、経緯については全く不明だが、難民救済のための、支援物資の調達、医療設備の提供が実現したとか、総攻撃が予定され、民間人や非戦闘員の救済が絶望的とされた地域において、どういうわけか突如、避難地区が設定され、そこでは破壊と殺戮が回避されたとか。そのような原因不明の、数々の奇跡の記事を目にするたびに、この世界の支配者と目されているZ4、彼が関与しているのではないかと、そんなことが彼女の頭をよぎるのである。

この世界のことに関して、極力不干渉の立場をとっていると、初めて会ったときに、Z4は話していたのだが、それでも彼はできうる限り、この世界の苦しみ悲しむ人々のために、手を差し伸べているのではないかと、ハガネにはそう思えてならない。そう考えると、天草四郎、この少年の姿に、彼がどうしても重なってしまうのである。だからこそ彼女はこの役に、自分のもてる全ての情熱を賭けたかったのである。少しでもこの少年の心に触れたくて、時間が許す限り、彼の生まれ育った土地へ足を運んだ。すると彼女の頭の中に、たくさんのイメージが湧いてきた。太陽に照らし出された、宝石のような光り輝く美しい海を背景に、煌びやかな陣羽織を身に纏い、信仰だけを頼りに救いを求める、虐げられてきたたくさんの人々の前で、四郎は穏やかな微笑みを浮かべていた。それは彼の揺るぎない覚悟の証でもあった。彼は、苦しめられてきた人々と、運命を共にすることを決意したのである。

(神よ、この少年を演じられることに、心から感謝いたします。)

この思いを胸に、ハガネは最後の最後まで、この天草四郎と、彼の心を演じきることを固く誓った。そしていよいよ、舞台公演の日を迎えたのである。

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