ある夜ヒエンは一人、ハインに呼ばれ部屋を訪ねた。何度呼ばれても彼女は、その時間がなれなかった。一分でも一秒でも、その時間が早く過ぎ去るのを願わずにはいられなかった。
「ハイン様参りました、何のご用でしょうか?」
厳重かつ重厚なドアの向こうにハインは不適な笑みを浮かべて、ヒエンを迎え入れた。
「よく来てくれた、実は大事な話を聞いてほしくて、内々にはもう以前から話をつけていたんだが。」
「は…….あ……。」
「近いうちに結婚式を挙げる、君と僕の。長かった..、とうとう君を僕の妻に迎えることができる。」
ヒエンの脳裏にとてつもない衝撃が走った。
(…………何言ってんのこの人………?)
ハインは立ち上がりヒエンに詰め寄った。
「ヒエン、僕の妻は君以外考えられないよ、誰にも渡さないたとえ…….ヒスイであっても…..。」
「もう式の日取りは決まっている、その日にむけて…………………………。」
ハインは細々とヒエンに話し出したが、あまりのショックに彼女の耳には何も入ってこないまま、呆然と自分の部屋に戻った。
自分が結婚?それもヒスイでもない男と、そんなことになったらもう、兄に会えなくなってしまうのではないか、そんな底知れない絶望がじわじわと時間が経過するごとに、彼女の脳内を蝕んでいった。
ハインとヒエンが結婚する………。
それはもちろんすぐにヒスイの耳にも入った、それもハインから直接。心の芯を支えた柱がバラバラに砕け散った。
(この心の喪失感は一体何だ……..?ヒエンがあいつと?ただそなれば、ヒエンは……….間違いなくヒエンは安泰だ……..、だけど、だけど…………..。)
その手を憎悪に満ち満ちた血に染め、請け負った数々の恥辱と屈辱、果てしない自分自身の心のくびきに苛まれ、それでも守り抜きたかったものはヒエンと、彼女の幸せ以外なにものでもなかった。
(ヒエンのためなら俺は、犬にでも悪魔にでも成り下がる…………..。)
それさえ叶えば、自分などどうなっても構わなかった。なのに、それなのに………。
突きつけられた彼にとってあまりにも耐えがたい残酷な仕打ちは、その胸の中でのたうち回り嗚咽をあげ、すでに心の平静さも理性さえも完全に決壊させるには十分であった。
果てしなくどこまでも沈みゆく奈落の底に落ちていく数奇な双子の兄妹、彼らに神が用意した楽園など果たしてどこにあるのだろうか。
DESTINY or FATE-運命の輪-第一話↓↓