
極限に飢えた少年が乗り、飛行する戦闘機を、捕捉ないし最悪撃ち落とそうと、バルドー陸軍飛行場から発進した、数機の戦闘機は、目標に向けて、次々に機銃を乱発した。しかしこの少年は、思いがけないこの、人生初の飛行(という名の実態は逃走)で、日々訓練を受けた、職業軍人であるパイロットたちの攻撃を、信じられないほどの技量で、操縦桿を駆使し、機銃掃射の嵐をかいくぐっている。機銃が発せられてからでなく、どうもその前に、相手の機首の向きや挙動など、あらゆる情報を、視覚をはじめとする五感で分析し、機銃の弾道を、的確に読み取っていた。それをもとに、軽やかで巧みな旋回、さらには尋常でないほどのスピードで、完全に追撃者であるパイロットたちを、翻弄している。

ただ少年は、彼自身を猛追する、その攻撃に反撃する術を知らない。機銃の撃ち方が分からず、照準器を睨みつける余裕など、到底ない。そのため、とにかく逃げまくっていたのだが一対複数、とうとう主翼に数発被弾、黒煙をあげはじめた。そのまま墜落すると思いきや、何とか飛行場外の草原地帯へ、、完全なる三点着陸とはならなかったが、不時着に成功した。だが彼は、コックピットから脱出するのと同時に、とうとう力尽き、意識を失い、そのまま倒れこんでしまった。
少年の搭乗した機体は、第一次大戦下における、バルドーの敵対陣営の盟主国、ドゥーシェに対抗するために開発された戦闘機で、現時点では、試作段階の状況であった。彼の搭乗および飛行により、操縦する者の、驚異的な”神の手”を借りれば、恐ろしいまでの旋回能力と、機動性を発揮できることが証明されたため、開発者たちは、歓喜の声をあげた(後の調査で、その機体は、エンジンやあらゆる部品が、オーバーヒート寸前であった。まさに、奇跡の逃避行であったわけだが)。ただ、その機動性を重視するあまり、機体は非常に軽く、防備は脆弱であり、それについては、改良の余地がまだまだあることも、同時に明るみになった。
少年が意識を失って、しばらくの時間が経過した。気が付くと彼は、ある医療施設のベッドの上に、完全なる手厚い治療を、施された状態で、寝かされていたのだった。
「気が付いたかね?」
一人の男が部屋に入ってきた。先ほど、この少年の”神技”に魅せられた、バルドー政府高官、陸軍大臣スグル=ムラサメである。まだ状況を理解していない少年に、彼は立て続けに語りかけた。
「私の息子、養子にならないか?私に、この国のために、どうか君の力を貸してほしい!」
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