G-75DH3GZ7WH SCARLETLOVESONG-暁の情熱 第二十話 - 無料小説漫画 フルムーン

SCARLETLOVESONG-暁の情熱 第二十話

SCARLET LOVESONG-暁の情熱

別れの朝がやってきた。一つの城に立てこもった数万人の反乱勢力に対して、圧政を強いた、政権側の武装勢力十数万人が、多勢に無勢で総攻撃を仕掛けてきた。あたり一面は火の海に包まれ、想像を絶するような、恐ろしい殺戮が繰り広げられた。ある者は首や胴体を切断、分断された。老若男女問わず、無残に命を奪われた屍の山が、いくつも築かれていった。それなのに、死者と化した躯は皆、一人残らず信じられないほど、安らかな顔をしていた。それを見て、政権の抗い難き無情なる残虐な命令の下に、殺戮の限りを尽くした、いや、尽くさざるを得なかった、政権側の兵士たちが、思わず憐れみの眼差しを向け、そして心の中でそっと祈った。今生で苦しみに満ち、嘆き悲しんだこの者たちが、今度こそ、安寧の地へたどり着くことが叶うように。

この世にこれほどまでに、辛く悲しい出来事があることを、反乱軍の総大将天草四郎時貞は、燃え盛る炎の中で、まじまじと思い知らされた。今すぐにでも、己の喉を、身体など切り裂いて、この地獄絵図さながらの状況から、逃げ出したくてたまらない衝動にかられた。しかしこれは、初めから分かりきっていたことだった。彼が苦しみ悲しむ人々のため、反乱軍の総大将を引き受けたその瞬間から、覚悟はしていたが、絶望と耐え難いほどの、痛みと苦しみの雄叫びと慟哭が、容赦なく頭と心を蝕んでくる。それでも彼は、命尽きる最後の最後まで生きて、祈り続けることをやめるわけにはいかなかった。今この瞬間にも、命を奪われている兄弟たちのために、この世に生きる、全ての苦しみ悲しむ人々のために、この先の未来を生きる後の世代のために、そして、自分たちを虐げ、殺戮を行う者たちのために。聡明な四郎には、ちゃんと分かっていたのだ。自分たちと対峙する政権側の総大将たち、立場の違いはあれど、彼らが決して、愚かな人間たちではないことも、自分たちの心に反して、非情なる決断を下さなければならなかったことも。それでも、苦しみ悲しむ兄弟たちのために、また、この先に生まれてくる、自分たちと同じ境遇を生きるものたちのために、降伏など絶対に許されなかったのだ。何があっても決して諦めず、四郎は命尽きる最後の最後まで、祈り続けることを決めていたのだ。

(主よ、この世に生きる、全ての苦しみ悲しむ人々を、歴史の上で、苦しみ悲しんだ全ての人々を、私の兄弟たちをお救いください。)

「いたぞ、こっちだ、総大将、天草四郎時貞!!」

とうとう四郎は、刀を振りかざした追手に捕らえられた。切っ先鋭い刃が背後から、四郎の喉を貫いた。彼の身体は力なく崩れ落ち、そして命果てた。瞳から、数えきれないほどの悲しみと、痛みの血に染まった涙をこぼしながら。こうして反乱軍は完全に鎮圧され、この少年の名は、歴史の一端に深く刻まれ、後の多くの人々の心の中に生き続けた。彼の心をうかがい知れる史料は、あまりにも少ない。それでも、この舞台で彼を演じたハガネは、遥かなる時を超えて巡り合った、歴史の裏に埋もれた、この少年の霊感と心を感じ取ることに、全力を注いだ。舞台公演初日の終わりに、感動の涙の中、観客から大きな拍手がおくられた。この熱狂も、そして彼女自身、ハガネ=ミドウという女優も、いつかは人々の記憶の中から、忘れ去られていく運命にあるだろう。それでも、彼女には決して、忘れたくないものがあった。

忘れない、命を懸けて、全ての人々の幸せを祈り続けた、一人の少年の心を。そして忘れない、歴史の中に、確かに存在した、他者のために生きそして死んでいった、全ての名もなき人々の、命の煌めきと優しさを。

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