G-75DH3GZ7WH SCARLETLOVESONG-暁の情熱 第十九話 - 無料小説漫画 フルムーン

SCARLETLOVESONG-暁の情熱 第十九話

SCARLET LOVESONG-暁の情熱

穏やかな波をたたえる蒼く美しい海、その海に囲まれた小さな島々。そのうちの一つの島に、16、7歳の少年が住んでいた。少年の名は、天草四郎時貞。スラリと背が高く、その容姿は連れて歩けば、誰もが固唾をのんで振り返る、そんな美しい少年である。ある日のこと、数人の男たちが四郎のもとにやってきた。男たちの話によると、この地方に住む人々に対し圧政を強いる、時の権力者たちに、大規模な反乱を起こすというものである。その中心は、自分たちのよりどころとする神への信仰を禁止され、虐げられてきた、貧しい人々である。彼らはいつか、この苦しい世界から、自分たちを救い出してくれる、”サルバトール.ムンディ”、”救世主”が現れると、固く信じていた。彼らの上に立ち、反乱軍を率いる総大将になってほしいというのが、男たちの四郎に対する要求であった。その話を聞いて、四郎は当初、とても承諾することができなかった。

(自分が総大将に祭り上げられることで、果たして誰かを、苦しむ人々を救えるのだろうか?)

そんな、心に大いなる疑問を抱きつつも、男たちに促されるがまま、四郎は何万人もの多くの人々の前に、厳かな陣羽織を身にまとい、姿を現した。その秀麗なる威厳を放つ神秘的な少年に、人々は息をのみ、思わず漏らしたため息とともに、一瞬で目を奪われた。

「なんて美しい方、間違いない、この方こそ我々が待ち望んだ”サルバトール.ムンディ”、救世主だ!四郎様、貧しさと迫害に苦しむ我々を、どうかお救いください。」

人々は真摯な願いと祈りを、一心にこの天草四郎に向けたのだった。その熱心に、自分に対し救いを求め、祈りをささげる人々に、彼は心を打たれた。後で一人になって、そんな人々に心を寄せ、彼はとめどなく涙を流した。この救いがたき苦しみ生きる人々を、自分が救えるというのか?いや、できない。強大な権力に、たとえ数万人が反旗を翻したところで、勝つなど到底不可能なことである。

(それでも、それでもせめて、この苦しむ人々の心が少しでも救えるなら、寄り添えることができるなら、自分の人生、命など全て捧げよう。)

そう決意し、再び群衆の前に姿を現した四郎は、多くの人々の前で、穏やかに語り始めた。

「主なるデウスはその昔、こう言われました。心の貧しい人々は幸いです、天の国はその人たちのものだからです。嘆き悲しむ人々は幸いです、その人たちは慰められるからです。そして主なるデウスはこうも言われました。疲れた人、重荷を負う人、全て私のところに来なさい、私があなた方を、爽やかにしてあげましょう。主なるデウスが昔、私たちに残してくださった言葉を固く信じて、どんな苦境の中にあっても、互いに助け合い、互いに愛し合いましょう、なぜなら我々は皆、兄弟なのですから。」

当初、反乱は功を奏して政権側を翻弄した。その勢いで、反乱軍は一つの城に立てこもった。一年ほどに及ぶ、この苦しい籠城生活の中でも、四郎と群衆は信仰を捨てず、互いを思いやり助け合って1日1日を超えていった。たとえどんなに空腹に苦しめられても、彼らは政権側の、どんな取引や交渉にも応じなかった。苦しみに満ちたこの世界から、いつの日か救い出され、苦しみや悲しみが一切ない天国へ行ける、彼らの誰もが、そう固く信じていたからだ。

しかしそんな彼らにも、終わりの時が、別れの時がやってきたのである。圧倒的多数の、政権側の十数万もの兵力が、反乱軍が立てこもる城への、総攻撃を開始したのだった。

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