目標に狙いを定め上空高度から、シューティングスターは”蒼き狼”めがけ、一気に急降下した。シゲハルの奇襲作戦の開始である。
(何かが襲ってくる……。)
あらゆる方面に神経をとがらせて海上を航行するスオウとカズキ。とくにカズキは突如世界が、”得体の知れない殺気”によって、一変したのを情け容赦なく味わわされることになった。まわりをとりまく大気が、ピリピリと彼の肌をつんざき、恐怖で震撼させるのをひしひしと感じた。そして彼は、狡猾に獲物を狙う鷲の鋭い刃が、今にもその背中を貫こうとする、狂おしいほど破壊的な修羅の空間と、波の平穏な恐ろしいまでの静寂が交錯するその瞬間、この世の破滅を見た。
すなわち”悪魔”が限りなく、スオウの搭乗する蒼き狼に、目にも止まらぬ速さで近づき、その刹那一瞬で、胴体内爆弾倉から的確に、爆弾を目標に投下した。
「ズドーン!」
爆弾の炸裂とともに、凄まじい爆音があたり一面に響き渡った。間一髪、爆発をギリギリのところで逃れた、蒼き狼とそれを追う悪魔こと”シューティングスター”は、一気に海上を、目にも止まらぬ速さで駆け抜けていった。
ここで、シゲハルが戦闘機シューティングスターをして行った、”急降下爆撃”について言及しておこう。それは上空高度から、主に戦艦や空母を標的にし、急降下しながら照準を合わせ、爆弾を投下するものである。目標にかなり接近するため、爆弾の命中率は高いが、同時に弱点もはらむ。すなわち急降下を遅い速度で行うと、戦艦などの軍用艦から、狙い撃ちされてしまうのである。かといって速度を上げすぎると、そのまま海に落ちてしまう危険性があるので、熟練のパイロットをしても、かなり難しい技術である。
しかしこのシゲハルという男は、誰よりも速く、目にも止まらぬ速さで目標に近づき、信じられないほど精密に照準を合わせ、爆弾を標的に命中させ、海面スレスレで機体を引き起こし脱出するという、とんでもない芸当を披露する。
しかも今回の目標は、戦艦や空母とは比にならないほど小さな戦闘機、すなわちスオウの搭乗する、蒼き狼である。おまけに月明りしか頼れるもののない、闇夜の海上で、戦闘機に急降下爆撃をぶちかますなど、歴史の上でも、もちろんこの作者自身も聞いたことのない話である。たとえるなら、地獄に無数の針を擁し、高くそびえる針の山の、月明りだけをたよりに、その中のただ一つの針を捉えるがごとく、それほどまでに難しいはなれ技であろう。
その身に受けるであろう艱難も、苦しみも痛みもすべて受け入れ、この戦争の時代を選びそして、戦闘機パイロットになるために生まれてきた、まさにシゲハル=ムラサメとは、そういう男なのだ。
このシゲハル=ムラサメとジャンジャック=スオウ、カズキ=キサラギの運命や如何に。