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「君の兄貴を助けるその代わり、君は兄貴をどんなに愛していてもずっとは共にはいられない……。いつか、何らかの悲しみや苦痛をもって、君たちは引き裂かれる運命を迎える…….それが条件だよ。」
これはかつて、生死の境をさまよったヒスイを助けるため、ヒエンが受け入れた条件、対価だ。
絶望に瀕した彼女の唯一の願いを求められ、死神はしばらくの時間一計を案じた。 昔彼女が兄を救うために、限りなく残酷な運命を受け入れてしまったが故に、彼女の兄に対する願いは絶対に叶わない望みであることを、誰よりも知っているのが死神である彼自身だ。
だが、唯一の友人であるこの哀れな双子の妹の願いに対し、せめて自分が最善を尽くせないか、彼は必死に人知を超えた思考を巡らしていたのだ。そしてとうとう、長い沈黙を破り、彼女に語り始めた。
「……….ヒエン、俺が唯一君の願いに最大限より添える方法はある。それを叶えるために、君の言う通り、君が昔兄貴を助けた時と同様に、本来あるべき運命、道理をねじ曲げるわけだから、それには対価が必要だ。」
ヒエンは小さく頷いた。そんな彼女に死神は続けた。
「君の願い 「君の兄貴と結ばれず共にいられないならせめて、苦しみも悲しみも、辛いことを一切思い出さず、兄貴のことだけを愛することができる世界へ行きたい……」その願いのためには、俺がそれをしてあげるため、君に求められる対価とは、”人間を捨てること”」
「……………………………。」
「人間が人間である所以、即ちそれは”限りある命” いつか寿命がきて死を迎えることになるが、その摂理を捨てて俺のように、もしかしたら、人によっては死ぬよりはるかに辛い苦しみかもしれないが、死ぬことができず、際限ない永遠の時間を生き続けなければならないということだ。」
ヒエンは緊張した面持ちで、死神の話に耳を傾けた。死神は重い口を開いた。
「そうすれば、君の意識には二度と、悲しみや苦しみ、また、それらの記憶ものぼってこなくなり、そのうえで兄貴を愛することができるだろう。だがその対価を受け入れるということは、俺が何より知っているが、もしかしたら君にとって…..ある意味死ぬよりもはるかに苦しいことかもしれないよ、それに君の兄は人間だ、いつかは死を迎えるんだぞ!! それでも君は、人間を捨てて願いを叶えるというのか!? 本気で言ってるのか!? 」
死神の最後の問いにヒエンは静かに、それでも確かに深く頷いた。以前の対価を受け入れたために、このままいけば、この世で最も愛する兄とはいずれ引き裂かれる運命を迎える。
ならばせめて苦しみや悲しみ、その記憶を自身の意識から永遠に消し去って、彼を愛し続けたい。彼女にとってヒスイと引き裂かれること、引き裂かれた悲しみの中で、死ぬまで生きなければならないこと、また、彼を愛せなくなること、それら以上の苦しみなどあろうはずがなかった。
そんな彼女の決意に、死神も答えた。そうまでして、愛するものを選ぶというのだから……….。
「………..承知した。」
彼女の決断により、生きる者の生死の運命を司る死神が左手を挙げた瞬間、その輪を廻す賽は投げられた。
即ち再びこの双子の兄妹の運命の輪は変わった。
二人を待ち受けるものは、果たして地獄か天国か……………。